INTRODUCTION

This work was produced with the perfect improvised sessions.


事の発端は昨年末にジョン・ゾーン、ビル・ラズウェルが94年以来、東京で共演するという話から。

仲介者を通し「今の日本で最もホットなドラマーは?」の問いに反応したMr.GAMO (東京スカパラダイスオーケストラ)が中村達也を推薦し、今回の録音の実現に至った。

両氏と初顔合わせとなった2002年12月6日、都内レコーディング・スタジオにて。
挨拶もほどほどに、コーヒーを飲みながらビルは達也に「ソングを演奏しよう」と一言。

間もなくセッティングが完了し、そのまま各自がブースに入ると、かつての巨人たちが創りあげたアヴァンギャルド・ジャズのアプローチにも似た3人の即興演奏がいきなり始まり、そこからはまるでマジックを見ているようだった。
達也からの荒々しいビートを飲み込むような大きいグルーヴで流れを支配するビル・ラズウェルのベース。
リズム隊の2人は一度も目を合わせることなく、お互いのビートを刻みこみながら、時には優しく、時には激しいリズムを展開してゆく。その上を疾走しながら吹き上げるジョン・ゾーンのフレーズ・メイキングのセンスは恐ろしいほど圧巻で、脱帽..というより、そのスタイルには「優雅」なイメージすら感じられた。

変な例えだが、荒れ狂う大地の上空を軽快に飛んでいる鷹のように思えた。

そのまま休むことなく30分間の即興演奏を3回、録音の行程は延べ3時間程の早さで一気に終了した。
世界的に優れたインプロヴァイザーとして活躍する両氏とのセッションを終えた達也が、ドラムセットから立ち上がり、2人と握手を交わすと、やはり、その才能に深い感銘を覚えた両氏から、翌日に予定されていた新宿PIT INNでの公演に飛び入りでの参加要請を受けることとなった。
一部コアな音楽関係者から今もって謎とされているJOHN ZORN、BILL LASWELLの東京公演に中村達也が急遽参加したのはそのような理由からである。そのPIT INNでのライヴ音源はビル・ラズウェルが大事に持って帰っているので、もしかしたら近い将来、N.Y.のジョン・ゾーンのレーベル[tzadik]からリリースされるかもしれない。

また、今作品はビル・ラズウェルからの「スタジオ音源を自らREMIXしたい」との申し出を受け、N.Y.でのビルの作業に対し、東京での感性で中村達也が対のREMIXをするという、各々の2面性を見事に表現した2枚組の作品となった。昨今、このようなサウンド・スタイルのリリースは珍しいとも言えるが、今作品は間違いなくその分野における秀作に位置されるだろう。
インプロヴァイザーとして活躍する両氏から絶大な支持を得た中村達也のドラミングだが、 元々が自身のバンド「LOSALIOS」においても、」その即興性がベースとなっているだけにインプロヴァイゼイションだけのセッションは得意中の得意。 その「LOSALIOS」の次回のアルバムはメジャータイトルとしてコロムビア・ミュージック・エンタテイメントから9月頃にリリースされる予定である。

オリジナルとして3作目となる完全スタジオ録音盤を制作するにあたり、彼自身が考える、ある程度の計算されたサウンドの構築作業を能動的に行っている傍らで、今回誕生した「BUCK JAM TONIC」とは、いわば計算できない中村達也の原石をそのまま封じ込めるサウンドを紹介するという、更にディープな場所ということになりそうだ。